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米子簡易裁判所 昭和26年(ハ)53号 判決

原告 石田嘉市 外二名

被告 西山市蔵

一、主  文

原告等の請求は何れもこれを棄却する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

二、事  実

原告等訴訟代理人は「原告石田嘉市が別紙目録<省略>記載(一)(二)(三)の田に、原告岩田健太郎が同目録記載(四)の田に、原告仲原忠助が同目録記載(五)(六)の田にそれぞれ小作権を有することを確認する。訴訟費用は被告の負担とする」旨の判決を求め、その請求原因として、被告は大東亜戦争中手不足のため所有農地の管理に苦しみ原告等にその小作方を懇請した。依つてその頃原告石田嘉市は別紙目録記載(一)(二)(三)の田及び(い)西伯郡巖村大字熊党字東六軒割二百五十九番田一反四畝二十五歩(ろ)同所二百六十番田二十九歩を、原告岩田健太郎は右目録記載(四)の田を、原告仲原忠助は右目録記載(五)(六)の田及び(は)巖村大字熊党字東六軒割二百四十一番の二田三畝五歩(に)同所同番の三田三畝十五歩をそれぞれ被告から小作した。然るに終戦となるや被告は先に自ら懇請して原告等に小作せしめた事情も顧みず突如として原告等に対し右各小作地の返還方を請求してきた。依つて原告等は昭和二十一年三月四日被告を相手方として鳥取地方裁判所米子支部に小作調停の申立をなし、同年同月十六日「原告石田嘉市は右(い)(ろ)の田、原告仲原忠助は右(は)(に)の田をそれぞれ同年六月末日限り被告に返還し、被告は原告石田嘉市に対し別紙目録記載(一)(二)(三)の田、原告岩田健太郎に対し同目録記載(四)の田、原告仲原忠助に対し同目録記載(五)(六)の田をそれぞれ爾後五年間継続耕作せしめることを承認する」旨の調停が成立した。而て右調停条項後段にいわゆる「爾後五年間継続耕作せしめることを承認する」とは五年を期間とする小作契約を定めたものであるところ、被告から原告等に対し右期間満了前六月乃至一年内に巖村農地委員会の承認を経て小作契約更新拒絶の通知をなした事実は存在しない。依つて右小作契約は農地調整法第九条第二項の規定に依り右小作期間満了と同時に更新され原告等は現に上記土地に小作権を有する者である。然るに被告は原告等の同小作権を争うに依り原告等はその確認を求めるため本訴に及んだと陳述し、被告の本案前並びに本案の抗弁に対し本件土地が訴外日本パルプ株式会社米子工場の建設用地であること、被告主張の日時その主張の如き条項の小作調停の成立したこと及び被告が現に本件土地の所有名義人であることは認めるけれども、その余の被告抗弁事実は何れもこれを否認すると述べた。<立証省略>

被告訴訟代理人は本案前の抗弁として先ず「本訴を鳥取地方裁判所米子支部に移送する」との決定を求め、その理由として別紙目録記載(一)乃至(六)の田は訴外日本パルプ株式会社米子工場の建設用地となつているところ、同建設用地に対する小作権は現在一反歩に付き金十二万円の代金を以つて売買されている。従て本件訴訟物価額は約金八十万円の高額に達するのであるから、本訴は簡易裁判所の管轄に属しないと陳述し、次に「本訴を却下する。訴訟費用は原告等の負担とする」との判決を求め、その理由として本件土地に付いては昭和二十一年三月十六日「被告は原告等に対し爾後五年間これを継続耕作せしめることを承認する」との条項を以つて小作調停が成立したのであるが、同条項は五年間の耕地返還猶予期間を定めたものであるから本来の意味における小作権の成立する筈はない。而て原告等に許容された右猶予期間も本訴提起前である昭和二十六年三月十六日限り満了しているのであるから、現在如何なる意味においても原告等に小作権の存在する理由はない。従て原告等の本訴請求は過去の権利関係の確認を求めるものであつて本案判決の対象となり得べき適格を有しない(昭和十年十二月十七日大審院判決集第一四巻二〇五三頁参照)。又本件土地は移転登記は未だ完了していないけれども、本訴提起前既に訴外会社に買収され同会社の所有に帰属しているものであつて被告は本訴に付き当事者適格を有しない。依つて本訴は敍上何れの点よりするも不適法であるから却下せらるべきものであると陳述し、次いで本案に付き主文第一項同旨の判決を求め、答弁並びに抗弁として、原告等が昭和二十年頃それぞれその主張の土地を耕作していたこと及び被告がその頃原告等に対し耕地返還の請求をなしたことは争わないけれども、原告等が右土地を耕作するに至つた経緯並びに被告が耕地返還の請求をなした理由の点に関する原告等主張事実は何れもこれを否認する。被告は昭和十九年家庭の事情に依りその所有に係る別紙目録記載(一)乃至(六)の田及び原告等主張に係る(い)(ろ)(は)(に)の田を原告石田嘉市に一時賃貸した。然るに同原告は被告に無断で賃借土地の大部分を爾余の原告等に転貸し、且小作料の支払をも遅滞したので、被告は右一時賃貸を解除し原告等に対しその耕地の返還を請求したものである。而て原告等が昭和二十一年三月四日被告を相手方として鳥取地方裁判所米子支部に小作調停の申立をなし、因つて同年同月十六日原告等主張の如き調停条項を以つて調停が成立したことはこれを認める。然し乍ら同調停条項後段は原告等主張の如く五年を期間とする小作契約を定めたものではなく、五年の耕地返還猶予期間を定めたものであるから原告等が同調停に依り小作権を取得しそれが更新されると謂うことはあり得ない。現に原告等自身この事実を認め本訴提起の二箇月前である昭和二十六年四月三十日被告を相手方として「昭和二十六年六月末日迄本件土地の返還猶予期間を伸張され度い」との趣旨の調停の申立をなしているのである。而て仮に前記調停条項後段が原告等主張の如く五年を期間とする小作契約を定めたものであり、且それが農地調整法第九条第二項の規定に依り期間満了と同時に更新されたとしても、原告等主張に係る小作権の対象である本件土地は既に訴外会社米子工場敷地となり、耕作の用に供し得べき農地としての実体を失い且これを再び農地に還元することも社会通念上不能の状態となつている。而て耕作の用に供することのできない工場敷地に小作権の成立する道理はないのであるから、少くとも現在においては原告等の小作権は消滅している。依つて原告等の本訴請求は何れも失当であると述べた。<立証省略>

三、理  由

先ず被告の管轄違の抗弁に付き考察するに、凡そ賃借権が訴訟の目的である場合においてはその訴訟物価額は客観的に相当な賃料(公定額の存する場合には公定賃料)と賃貸借期間とに依りこれを算定すべきものと解するを相当とする。然るところ当裁判所の嘱託に基く西伯郡巖村農業委員会の調査に依れば、別紙目録記載(一)乃至(六)の田の昭和二十五年度における小作料の総額は金二千九百四十二円九十銭であり、原告等主張に係る小作期間の本訴提起当時における残存期間は四年八箇月である。然らば本件訴訟物価額は右小作料総額に残存小作期間を乗じた金一万三千七百円余に過ぎないのであるから、本訴が簡易裁判所の事物管轄に属することは裁判所法第三十三条に依り洵に明瞭であり、被告の右主張は畢竟その独自の見解に出でたものと謂わなければならない。

次に被告の請求不適格の抗弁に付き考察するに、確認訴訟の目的たる権利関係が現在のものに限らるべきことは被告所論の通りである(但し被告引用の判決は確認利益の欠缺と本判決との関係を判示したものであつて上記の趣旨を判示したものではない)。然し乍ら被告主張に係る小作権消滅乃至不存在の事実は結局本件訴訟物である原告等の小作権の存在そのものを否定するものであり、本来の審理を終了して始めて判明する事柄である。然るところ請求が本案判決の対象となり得る適格を具有することは、本来本案の審理の前提となるべきものであるに拘らずその適格を有するか否かが本案の審理を終了して始めて判明すると謂うことは矛盾であるから、本件におけるが如く請求の適格欠缺の原因たる事項が同時に請求の内容と関係を有する場合においては、本案の審理終了前における請求適格の審査としては一応原告の主張事実が認め得られるものと仮定し、その主張する所に従つて請求の目的たる権利関係が現在のものか否かを判定するを以つて足るものと謂わなければならない。然るところ本訴において原告等は昭和二十一年三月十六日調停に依り成立した五年を期間とする小作契約が、右期間満了と同時に農地調整法第九条第二項の規定に依り更新され、現に存続中である旨を主張しその小作権の確認を求めているのであるから、原告等の確認請求に係る小作権が現在のものであることは自ら明白である。然らば原告等の請求は本案判決の対象となり得べき適格に欠ける所なく被告の右抗弁は理由のないものと謂わなければならない。

次に被告の当事者適格欠缺の抗弁に付き考察するに被告は本件小作権の対象である別紙目録記載(一)乃至(六)の田は本訴提起前既に訴外日本パルプ株式会社に買収され、被告の所有を離れている旨を主張するけれども、移転登記の未了であることは被告の自ら承認する所である。然らば被告は仮令真に右田を訴外会社に売渡したとしても同売買に因る所有権移転を以つて原告等に対抗し得ないのであるから、被告の右抗弁も亦理由がない。

依つて進んで本案に付き審案するに、昭和二十年頃原告石田嘉市が各被告所有に係る別紙目録記載(一)(二)(三)の田外二筆の田を、原告岩田健太郎が被告所有に係る右目録記載(四)の田を、原告仲原忠助が各被告所有に係る右目録記載(五)(六)の田外二筆の田をそれぞれ耕作していたこと、原告等が被告から右各耕地の返還請求を受けたため昭和二十一年三月四日被告を相手方とし、鳥取地方裁判所米子支部に小作調停の申立をなしたこと、同年同月十六日「原告石田嘉市及び原告仲原忠助はそれぞれ右目録記載の田以外の耕作地を昭和二十一年六月末日限り被告に返還し、被告は原告石田嘉市に右目録記載(一)(二)(三)の田、原告岩田健太郎に同目録記載(四)の田、原告仲原忠助に同目録記載(五)(六)の田をそれぞれ爾後五年間継続耕作せしめることを承認する」旨の調停の成立したこと及び右目録記載(一)乃至(六)の田が現在訴外会社米子工場の建設用地に編入されていることは何れも当事者間に争がない。而て訴外会社米子工場の建設工事は昨夏着工以来着着と工程を進め、現在敷地の整地工事をほぼ完了していることは公知の事実であるところ検証の結果に依れば右目録記載(一)乃至(六)の田の現状は次の通りである。即ち(一)の田は幅員十一米高さ約一米の道路を以つて中央よりやや北寄りの部分を東から西に縦断され、又幅員四米八十糎高さ約一米の鉄道路床を以つて南西部を斜断され、更に東北角は前同様の幅員高さの別個の鉄道路床の敷地と化し、西南角の部分に僅かに農地の原状を残すのみで爾余の道路並びに鉄道路床の敷地以外の部分は尽く盛土工事のためその表土を剥ぎ取られている。(二)の田はその中央部を幅員高さ前同様の鉄道路床を以つてやや斜めに横断され、同路床の西側の地域には未だ農地の面影を認め得られるけれども、その東側の地域は尽く表土を剥ぎ取られている。(三)乃至(六)の田は何れもその東側半分をブルトーザーを以つて整地され、同地域は小石交りの固い平地と化し、又その西側半分は何れも小石を混入した赤土を以つて四十糎乃至六十糎の高さに地盛りされている。而て右(一)乃至(六)の田は何れも広大な訴外会社米子工場敷地のほぼ中央部に位置し、周辺の水路は尽く遮断されている。唯現在(二)の土地の西方並びに東南方及び(一)の土地の西北方程遠からぬ箇所に、従前の潅漑用水路が水流を遮断された儘幅員二米乃至三米長さ十米乃至三十米の溝状の水溜りとなつて残存しているけれども、何れも水量に乏しいのみならず、整地工事の進捗につれ早晩埋立てらるべきことは周囲の状況よりするも殆ど疑を容れない所である。依つて別紙目録記載(一)乃至(六)の土地は現状の儘においては到底耕作の用に供し得べきものとは認められないのみならず、新規に水路を啓開し道路並びに鉄道路床を除去し盛土を取除き新しく表土を入れ、整地済の個所を開墾してこれを再び農地に還元せしめることは物理的には可能であるとしても、不相当に莫大な費用と犠牲とを要するは必定であり、社会観念上従て亦法律的評価の上においては不能であると謂わなければならない。然らば仮に原告等主張の如く前記調停条項が右目録記載(一)乃至(六)の土地に付き五年を期間とする小作契約を定めたものであり、且同契約が期間満了と同時に農地調整法第九条第二項の規定に依り更新されたものとしても、更新に係る小作契約は履行不能に因り既に消滅したか或は損害賠償債権に転化したかの何れかであり、その何れにせよ右各土地に対する小作権そのものが既に消滅して存在しないことは明瞭である。

依つて右目録記載(一)乃至(六)の土地に付き現に小作権を有することの確認を求める原告等の請求は何れも失当であるから、これを棄却し訴訟費用の負担に付き民事訴訟法第八十九条、第九十二条第一項本文を適用の上主文の通り判決をする。

(裁判官 前田亮)

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